ニワトリ漢文法 置き字 前置詞・終尾詞・接続詞

置き字

置き字とは、簡単に言って読まない文字のことです。

前置詞・終尾詞・接続詞がこれにあたります。

999995r -置き字

とはいえ、漢文は古代の中国語を文字で記したものですから、「読まない」というのは、日本人が日本語で読む際に、勝手に「読まないことにしている」というだけで、中国語では当然読む訳です。

初めから読まないことにきまっている訳ではありません。

だから、恐ろしいことに「これは読んだ方が都合がいいな」という場合は読まれたりすることになります。

前置詞だから、終尾詞だから、接続詞だから「読まない」ということにはなりません。

例えば、接続詞の「而」という文字を使って「顧而笑」という文を作ります。

「顧」は「かえりみる」「笑」は「わらう」という字なので、この文は「顧みて笑ふ」と書き下すことができます。「振りかえって笑う」という意味です。この場合「而」は「顧みる」と「笑ふ」をつなぐ記号とみています。つまり読みません。

然し、この同じ文は「顧み而(しか)して笑ふ」と書き下すことができない訳ではありません。この場合、「而」は「しかシテ」と日本語の接続詞を当てて読む字で、置き字ではない、ということになります。

まあ、もともと日本語には「振りかえって笑う」という言い方と「振りかえり、そして笑う」という言い方、二つある訳です。これに合わせて漢文の読み下しも二種類、基本どちらが間違いという訳でもありません。

「じゃあ、どう読むのが正解かわからないじゃないか!」

これは、別のところでもちょくちょく言うことになると思いますが、所詮、漢文の訓読なんてものは、古い中国語の文に、日本人が勝手に当て字をして「日本語風に」読んでいるにすぎない訳です。

その読み方に、絶対的な正解があるはずがありません。

原文のもともとの意味に添っているなら正解です。

とはいえ、大体どう読むのがいいかは決まってくるでしょうし、余りあれこれ読み方があっても不便だということで、これも「大体」こう読むと決めましょう、ということになっている訳です。

ただ、

「所詮、漢文の訓読なんてものは、日本人が勝手に当て字をして読んでいるにすぎない」

このことは、覚えておいた方がいいと思います。

前置詞「於・于・乎」

999995r - 片っぽの屋根に干して呼ぶ

置き字に使う前置詞として覚えておくべき字は「於(オ)・于(ウ)・乎(オ)」の3つです。

「かたっぽの屋根に干して呼ぶ」と覚えます。

「かた」は「方」、「屋根」は「人」、「に」は「二」、「干して」が「于」、「呼ぶ」は「乎」です。

「干す」と「于」は違う文字ですが、似ているのでこう覚えます。「乎」は「呼ぶ」の右側ですので「呼ぶ」から引き出してしまいます。

「於・于・乎」はなじみのない漢字ですが、「かたっぽの屋根に干して呼ぶ」のフレーズ一つで完ぺきに覚えられます。

画像はイメージ付けのために入れています。

用法

これらの3つの文字の用法はまったく同じです。基本、どれを使ってもOK、入れ替えてもOKということです。

999995r - コピーjkl

これらの文字がある場合、これらの文字をまたいで、下から上へ返って読みます。

「於・于・乎」は置き字なので読みません。前置詞の下の文字は基本的に名詞で、「ヲ・二・ヨリ」のどれかが付きます。

上の例は、「我山に隠る」のヴァリエーションです。

一度、訓読は忘れて、原文の意味を英語と照らし合わせて考えてみることは、お勧めです。

「我隠於山」は英語で言えば「Ihide in the mountain.」みたいな感じでしょうか。「我」が「I」「隠」が「hide」「山」が「the mountain」に当たります。

つまり、この文では「於」は「in」に当たる役割をしている前置詞だということになります。

このように、英語と対照することで、漢文の前置詞が果たしている役割をイメージしやすくなります。

問題は、この前置詞の役割が7つもあり、多くて覚え辛いということです。

そこで、次のように整理してシステマティックに覚えてしまいます。

前置詞の用法

とりあえず、前置詞「於・于・乎」の下に来る名詞は「ヲ・二・ヨリ」のどれかを送り仮名ととしてとりますので、これを覚えます。

そのままでも覚えられないことはありませんが、「前置詞は、鬼より(ヲ・二・ヨリ)前に置くことば」とでも覚えておくとよいでしょう。

そして、この「ヲ・二・ヨリ」のどれを送り仮名とするかによって、7つの用法を分類します。

「ヲ」で読むときの用法

「目的」

「ヲ」の用法は「目的」のみで、口語訳するときも「を」と訳してまず間違いありません。

「我学於文」ならば「我文を学ぶ」と読み、口語訳は「私は文を学ぶ」となります。

以上です。

覚えることを優先する方は次の「ニ」と読むときの用法へ進んで結構です。

*注

これは、英語で言う第3文型のO(目的語)に当たります。だから「目的」という名前の用法になる訳です。

ちなみに英語の初心者には、Oは「を」と訳すからO。Oは丸い目玉の的(まと)で「目的語」と覚えるように教えます。

また、このことは漢文の基本形式の説明で詳しく扱うつもりですが、漢文では、基本的に前置詞なしで第3文型「S(主語)V(動詞)O(目的語)」の文を作ることができます。例えば「私は文を学ぶ」であれば、

「我学文」とするだけでいい訳です。

然し、「学」と「文」がVOの関係であることをよりはっきりさせたい場合には、

「我学於文」

という風に前置詞を入れて表現することもできる、ということです。

つまり、この用法は、あくまで「目的語であることをはっきりさせるための補助的な用法」ということになります。もちろん英語にはこんな前置詞の用法はありません。

「ニ」で読むときの用法

「ニ」の用法は上の図を見ても分かる通り4つあり一番多いです。そこで少し覚える工夫が必要になります。

「場所」「時間」「対象」

まず、3つの用法「場所」「時間」「対象」を3兄弟の用法としてまとめて覚えます。

これらはカンタンに言えば「場所・時・もの」です。英語で言えばwhereとwhenとwhatに当たりますね。「どこ、いつ、何」ということです。中学で英語を勉強している学生にとっては身近な3兄弟です。

この「場所・時・もの」を漢字に当てはめて「場所」「時間」「対象」という3用法を覚えてしまおうということです。

大体、たくさんあるものが覚えにくいのは「次なんだったっけ?」となるからです。

そこに「場所・時・もの」という3兄弟のくくりがあれば、「場所」「時間」「対象」の3つの用法を導き出すナビゲーターとして使えます。

覚えにくければ、順番は変えてもOKですが、一度、この順番、と決めたらその後は変えないようにしましょう。常に同じ順番で言うことで記憶は定着します。

「場所」の用法では、口語訳が「~に」となる場合と「~で」となる場合があります。

「至於海」ならば「海に至る」と読み、口語訳も「海に至る」でOKです。

「遊於海」ならば「海に遊ぶ」と読んで、口語訳は「海で遊ぶ」となります。

「時間」の用法では、口語訳が「~(の時)に」となる場合と「~まで」となる場合があります。

「発於早朝」ならば「早朝に発つ」と読み、「早朝に出発する」

「待於今、三歳也」ならば「今に待ちて三歳なり」と読み、「今まで待つこと三年になる」といった具合です。

「対象」の用法では、口語訳が「~に」となる場合と「~に向かって」となる場合があります。

ただ「あえて言えば2つあるね」という程度で、実際には「~に」だけ覚えていれば、これだけでも十分用は足りるでしょう。

「志於学」で「学に志す」、口語訳は「学問に志す」です。

*注

これら、「場所」「時間」「対象」の3用法は、英語ではそれぞれ適当な前置詞をとりますね。「場所」の「~で」は「in,at」など、「~に」は「to」、「時間」の「~に」は「in,on,at」など、「~まで」は「till」、「対象」の「~に」は「to」または「for」みたいな感じでしょうか。

それぞれの前置詞を使った英文と漢文を作って見比べてみるとイメージ付けにはいいですね。

「ところが」です。漢文ではこれら3用法の「~に」が付く名詞は「補語」という扱いになっていて、「目的語」同様「前置詞」は必ずしも付けなくともよい、ということになっています。

かなりショッキングでしょ。

よって、上に出した例文なんですが、ざっといくつか並べてみると、

「遊海」「発早朝」「志学」…とかでも全然問題ないってことになります。

何か申し訳ない。

まあ、「於・于・乎」の3つの前置詞が全部同じ用法で区別なく使える、とか、色んな用法で使える、とか言う時点で大体察しがついていた方もおられると思いますが、「漢文」は助詞の用法に限らず、全体的にかなりざっくりしています。

英語のように、厳密に用法を決めて、それで文の意味をはっきりさせる、といった役割は助詞には期待できません。日本語ですら「で、に、を」など使い分けるところを、全部同じ字ですからね。

むしろ、これらの前置詞は「付けても付けなくてもよい」という前提で、「~二」と送り仮名を振る「補語」の3用法として覚えておくとよいでしょう。

「受身」

3兄弟の用法とは別に、もう一つプラスアルファの用法があります。それが「受身」です。

ある程度、英語の勉強をしていれば「受動態」は知っているでしょう。「~によって○○される」とかいう。あれです。

日本語の「受身」の用法を考えてみると、なぜ「に」の用法に「受身」が入ってくるのか、はっきりします。

小学生でも「せんせぇ~○○くんに叩かれたぁ~」くらいは使えますね。

これは、立派な日本語の「受身」の例文です。

ここで注目!「○○くん」はい!「」使ってますね。これが「に」の用法に「受身」が入ってくる理由です。

例えば、

「奪於敵」とすれば、これは「敵に奪はる」と読むことができます。口語訳でも「敵に奪われる」としてOKですが、英語のように「敵によって奪われる」と訳すとよりはっきりしますね。「~によって」は英語では「by」を使います。今回の「於」は、受動態の「by」みたいな役割になっています。

そして今回の「受身」の前置詞は、この前置詞が入ることで「受身」の用法が成立しているということで、さすがに省略することはできません

「ヨリ」で読むときの用法

では、最後に「ヨリ」で読むときの用法ですが、これも「ニ」で読むときの受身の用法と同じく、日本語の「~より」の使い方から想像して覚えるのがお勧めです。

「起点」

一つ目は、よくプログラムなんかで使う表現「○○駅より出発」みたいな表現です。これは「○○駅」という場所から出発するという意味で、出発点を示していますね。

場所だけでなく、時間でも「3時より再開致します」みたいな表現、これは再開する時刻を示します。どちらも、何かの動作を始める「点」を表していてこの用法を、

「起点」と言います。

「入乎耳、出乎口」は「耳より入りて、口より出づ」と読み、口語訳は「耳から入って、口から出る」となります。

「比較」

もう一つは、比べる表現「母は父より背が高い」みたいな「比較」表現です。

確かに「より」使いますね。こうしてみると「起点」と「比較」、どちらも「より」を使う代表的な表現ですから、日本語の「より」の使い道を想像することで最後の二つの用法は覚えてしまおうということです。

「高于山、深于海」は「山より高く、海より深し」口語訳は「山より高く、海より深い」ほぼそのままですね。